賃貸借契約においては、賃貸人と賃借人の双方が、相手に対する義務を負う。したがって、賃貸借契約は有償の双務契約であるといえる。賃貸人の中心的な義務は、賃借人に目的物を使用収益させること(及びそのために必要な措置をとること)であり、賃借人の中心的な義務は賃料の支払である。以下、個別に見ていく。
賃貸人の義務
賃貸人は、賃借人に対して、賃貸借契約の目的物となっている物を使用収益させる義務を負っている。つまり、目的物の維持や管理は、賃貸人の義務とされているのである。具体的には、以下のような義務を負っている。
これらに加えて、賃貸借契約は有償契約であるから、559条にある瑕疵担保責任の規定が準用される。よって、賃貸人は、これによる担保責任を負う場合がある。
- 使用収益をさせる義務
- 賃貸人が賃借人に対して目的物を使用収益させる義務は、賃貸借契約の本質である。具体的には、賃貸人は、賃借人が目的物を使用するに際して、それを妨害している第三者がいる場合には、これを排除しなければならない、というような形で現れる。
- 修繕義務(606条1項)
- 賃貸人には、目的物の使用収益に必要な修繕をする義務がある。例えば、賃貸している家が雨漏りするならば、それを修理するのは賃貸人の義務ということになる。なお、賃貸人が修繕しないことによって、使用収益が不可能であるような場合には、賃料を支払う必要はない、とした裁判例がある。
- 費用償還義務(608条1項)
- 賃貸人は、賃借人が支出した必要費および有益費を償還しなければならない、という費用償還義務を負っている。必要費は支出後直ちに、有益費は契約終了後に、支払わなければならない。
- 必要費とは、目的物を使用収益できる状態を維持するために必要な費用のことをいう。前述した修繕義務を賃貸人が果たさない場合、賃借人が代わりに修繕を施して、その費用を賃貸人に請求するということも、これによって認められることになる。
- 有益費とは、目的物の改良のために支出した費用をいい、契約の終了時に実費か改良による価値の増加額を賃貸人が償還しなければならない。もしも、賃貸人がこれらの費用を償還しない場合、賃借人は留置権を行使して、建物の明渡しを拒絶できる。
賃借人の義務
賃借人は、契約の規定に従って目的物を使用収益する権利を有し、これに対して賃料を支払う義務がある。
また、賃借人は、契約終了時に目的物を原状回復して返還すべき義務を負う(616条、597条1項、598条)。
原状回復とは、目的物を契約前の状態に戻すことである。通常の方法で使用収益していた場合以上に目的物が傷んでいたときには、それを修復し、あるいはその分の損害を賠償する義務として現れる(なお、敷金が交付されている場合は、賃貸人は敷金から相殺することができる)。
また、これとは逆に、目的物が契約前よりも物理的に増加している場合も、原状回復の問題である(これは不動産の賃貸借において特に問題となる)。まず、賃借人が持ち込んだ家具のように取り外しが簡単な場合、これらは収去して原状回復する義務が生じる。次に、賃借人が買ってきて貼り替えた壁紙や、賃借人自身が設置したエアコンなどの空調設備のように、それを分離することが困難であったり、経済的に大きな損失となる場合には、それらの物は付合(附合)し、賃貸人の所有物となる。ただし、前述した費用償還の問題が発生する。上記二つの場合のどちらともいえない場合には、賃借人が、収去するか費用償還請求権を行使するか選択することができる。
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